【「博士の愛した数式」小川洋子】記憶が無くなっても変わらない愛【ネタバレ感想】

小説
おすぎ
おすぎ

今回の小説「博士の愛した数式」小川洋子

はこんなお話しです!

  • 算数や数学が苦手で嫌いだと思っていても、価値を見出せる
  • 急展開や衝撃が走る出来事は多くないが、温かくも切ない感情になる
  • 明らかになることばかりではなく、物語を考察する余地が残っている

著者の紹介

1962(昭和37)年、岡山県生れ。

小説家。早稲田大学第一文学部卒。芥川賞選考委員、河合隼雄物語賞選考委員など。

1991(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。

『博士の愛した数式』(読売文学賞、本屋大賞)、『薬指の標本』『いつも彼らはどこかに』『生きるとは、自分の物語をつくること』(河合隼雄との対話)はじめ多くの小説・エッセイがあり、海外にも愛読者を持つ。

あらすじ(ネタバレ無し)

ある日、とある家政婦のもとに新しい依頼人の案内が来た。

その依頼人は9回も家政婦を交代しており、わけありであった。果たして、どのような問題があるのか不安を抱きながら最初の仕事に向かう。

やせ細った64歳の元数学教授がそこにはいた。

「靴のサイズは何cmかね」「君の電話番号は何だい」

数を聞けば、それにまつわる数学の理論を聞かせてくれる。ただし、一度考え始めてしまえば邪魔されることを嫌い、やせ細った体からは想像できないくらいの怒りをあらわにする。

ただ、最も問題なのは「ぼくの記憶は80分しかもたない」ということだ。

この博士は交通事故から脳の機能に問題が残り、新しく記憶できるのは80分まで。つまり、家政婦との出会いは毎日、新しい家政婦との出会いになってしまう。

そんなある日、息子を連れてくることになった。

博士は息子をルートと呼び、我が子のように可愛がってくれた。息子の前では礼儀正しく、常識人のうように振る舞う博士に、家政婦も笑顔で接するのであった。

そんな日常の生活が続く中、博士の記憶は...

深読みポイント

未亡人との関係

博士は自ら家政婦をお願いしたわけではありません。

博士は夫を亡くした未亡人によって経済的な援助を受け、家政婦も雇ってもらえているのです。

最初は博士を厄介者のように扱っているような、冷淡さを感じる描写が多いように感じましたが、物語が進むにつれて博士と未亡人は冷たさで語れない関係があることが分かります。

特に、物語の終盤では未亡人と家政婦、息子との関わり方も変化します。

主要な登場人物ではありませんが、物語を深く読む鍵になる登場人物でしょう。

おすぎ
おすぎ

最初の未亡人の話し方は、博士を厄介と感じているようにも見えちゃったなあ。

未亡人の過去も考えると、そう考えざるをえないように感じちゃったけど。

およこ
およこ

でも、9回も家政婦を雇い直してくれてるのよね。

施設にいれることもできたとは思うけど。なんでだろう。

博士が愛した数式って?

物語には様々な数式や定理が存在しています。

タイトルにもなっている博士が愛した数式とはどのような意味なのでしょうか。

物語には博士の数学への愛に限らず、家政婦、息子への愛も感じ取ることができます。

様々な愛に溢れた作品だからこそ、博士の愛した数式とは何だったのでしょう。

また、そこにある価値や意味とはどのようなものだったのでしょう。

おすぎ
おすぎ

高校数学までの知識があれば、なんとなーく、ついていけるかな。

中学校までの知識があれば、物語は問題なく理解できるよ!

およこ
およこ

数学が苦手だった身としては苦しいわね。

でも、中身を見てみると、数学というより算数だから、思ったよりは簡単そう。

感想(ネタバレ無し)

物語は最初から最後まで、急展開は起きないまま進んでいきます。

博士と家政婦、息子の3人の日常的なやり取り、出来事が淡々と描かれています。

ただ、急展開が起きないからこそ、刻々と迫る別れも感じ取れてしまいます。

特に、情景描写が細かく描かれており、天気や景色、野球のボールといった様々な物が今後の展開を予期させるように表現されています。

感動小説や泣ける小説の紹介されているのをよく目にしますが、自分は悲しさという印象を受けませんでした。

あらすじにもあるように、暖かくも悲しい。この感情は切なさに近いと思います。

切なさを感じながら、穏やかな気持ちになれる1冊でした。

およこ
およこ

あら。結局、そこまでの感動作品じゃなかったってこと?

おすぎ
おすぎ

そう言われるとおすぎに問題がありそうだから、やめて。(笑)

確かに、号泣や嗚咽まではいかなかったよ。

でも、その分、じわじわとくる切なさが強かったかな。

深読みポイントを振り返ってみると後からくる感じがしました。

およこ
およこ

直接的な文章の無い部分ってことかしら。

博士や未亡人の過去も、はっきりと描かれてはいないのよね。

おすぎ
おすぎ

だからこそ、解釈を進めていくうちに切なさが強くなっちゃうんだよね。

さて、ここから先はネタバレ感想になります!

まだ読んでない、読みたくない人はここで止めてくださいね!

【注意】ネタバレ感想

未亡人は博士と深い関係にあった

作中には博士と未亡人が一緒に写った写真が見つかります。

博士のメモに残っている「Nとの待ち合わせ」も未亡人とのことでしょう。

未亡人は事故前から博士と関わりを持っているので忘れられることは無い。口論の最中も家政婦に言っていたことから、家政婦への嫉妬か、博士への愛か、定かではありませんが、博士に対して特別な思いを抱いていたことが分かります。

自分で行おうと思えば、家事はできたでしょうし、一緒に暮らすこともできたかもしれません。その思いを持ってなお、一緒に暮さず、家政婦を雇って上げているところには未亡人なりの愛の現れかもしれません。

おすぎ
おすぎ

恐らく、禁断の恋、のようなものだったのかな。

博士のために、未亡人なりの愛の形だったんだろうね。

およこ
およこ

うーん。でも、なんで家政婦なんか雇っていたのかしら。

未亡人は記憶に残っているんだから、そのまま一緒に暮らすこともできたわよね。

おすぎ
おすぎ

72歳だったし、足も悪かったからね。

良い生活をさせてあげたかったんじゃないかな?

家政婦と息子が深い関係になって博士を騙すことを警戒していたし。

およこ
およこ

だとすると、やっぱり特別な感情を持っていたのね。

未亡人も強い愛を博士に注いでいたのかしら。

博士の愛した数式は「オイラーの公式」?

物語の中盤、家政婦と未亡人は口論になりました。

きっと、未亡人も博士に対する思いがあり、未亡人を冷たいと感じていた家政婦からは思いもよらぬ行動だったでしょう。

そんな中、博士は「オイラーの公式」を見せました。

不思議なことに、未亡人も落ち着き、その場が収まってしまいました。

正直、自分はこのシーンを見たとき、全く理解ができませんでした。ここからは、様々な人の感想やレビューを参考にしながらの考察です。

「オイラーの公式」には「π」「i(虚数)」「e」といった3つの数に「1」を足すことで0になる。詳しい公式は累乗をしたりするので若干異なりますが、それぞれを登場人物になぞらえていると考えられます。

「π」「i」「e」は家政婦、息子、未亡人であり、そこに博士という「1」が加わることで丸く円満に収まることを意味していたのではないか、となります。

博士がそこまで考えていたかは不明ですが、物語の最後に円満な形で関係が描かれていたことを考えていると、未亡人は博士の意図をそのように解釈したのではないかと考えられます。

様々な愛に溢れているからこそ、博士の愛した数式は「オイラーの公式」であり、最後には円満な愛で終えることができたのではないかと感じます。

おすぎ
おすぎ

うーん。書きながら切なくなってきてしまった。

博士は子どもへの愛が深いだけじゃなくて、人との円満な関係も愛していたのかな。

人が多くて騒がしい場所は苦手そうだったけど。

およこ
およこ

記憶が80分しか持たないってことは、新しい人間関係も築けないものね。

おすぎ
おすぎ

毎朝、自分のメモを見て80分しか記憶が持たないことをしって、涙を流す。

もし、自分なら想像がつかないくらい苦しいんだろうなって思うよね。

良くも悪くも、それすら忘れてしまうんだけど。

およこ
およこ

残された人たちも苦しいわよね。未亡人も、家政婦も、息子のルート君も。

おすぎ
おすぎ

博士の過去や背景を考えると余計にね。

数学をコミュニケーションの道具にするのも、仲良くなりたかっただけなのかな。

きっと、博士は皆が仲良くなってくれることをオイラーの公式に願い、愛していたんだね。

最後には、皆で関われる関係になっていて、よかったな。

コメント

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